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SIBO-小腸内細菌異常増殖

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SIBO-小腸内細菌異常増殖

by サラ・スペクター自然療法医師

ナチュラウェルネスクリニック
3885 Duke of York Blvd. Suite 211
Mississauga, ON L5B 0E4

905 276-6800



SIBO - Small Intestinal Bacterial Overgrowth はじめに

小腸内細菌異常増殖(SIBO: small intestinal bacterial overgrowth)の特徴は、小腸内における様々な種類のバクテリア、大部分が結腸にしか存在しないバクテリアの増殖です。小腸内細菌異常増殖は当初は稀な病態であると考えられていました。しかし、現在この病気は以前認められていたよりも罹患率の高い消化器疾患であると認識されています。あるメタ分析によると、過敏性腸症候群(IBS: irritable bowel syndrome)の患者さんたちでは小腸内細菌異常増殖の罹患率がおおよそ64%であることが示されました[1]。過敏性腸症候群の症状は、軽度のもの(便秘、ガス、腫脹)から慢性の下痢、体重減少、そして吸収不良に悩まされるというものまで、様々です。小腸内細菌異常増殖の症状は過敏性腸症候群の症状と非常に良く重なっている事が分かっていますが、これは大半の患者さんたちが誤って過敏性腸症候群の診断を受ける原因となっています。


定義

小腸内細菌異常増殖の定義は、小腸内の1mLあたりのバクテリアのカウント数が105-106を超え、そして特定の種類、特に大腸菌群の微生物が見られる、とされています[2]。大腸は1mLあたり平均1014カウントのバクテリアを含んでいますが、この大腸には大半の腸内微生物叢が常在しています。比較すると、小腸の常在バクテリアは通常1mLあたり105カウント未満で、これらの大半はグラム陽性好気性細菌(図1)です。小腸内のバクテリアがこれほど少量であるのは、十分な胃酸分泌量、正常な蠕動、正常な分泌型IgA値、そして無傷の回盲弁が理由です[4]。


病因および病態生理

小腸内細菌異常増殖は大概、胃酸分泌の異常や腸クリアランスの異常が見られる際に起こり、これが胃腸管内では通常は見られないバクテリアの移動を引き起こします。患者さんたちが小腸内細菌異常増殖を発症し易くなる幾つかの条件には、塩酸欠乏症(自己免疫あるいは医原性や外科的処置)、憩室症、全身性疾患(例えばセリアック病、クローン病)、腸閉塞、(分泌型IgA欠乏といった)免疫欠損状態、そしてアルコール依存症といったものがあります[1]。高齢の人々は、年齢と共に胃酸の生産が減少することから、より病気にかかり易いでしょう。いったんバクテリアの異常増殖が起こると、このバクテリアの有毒副産物が原因である腸内毒素症に対する炎症反応が腸粘膜で起こります。小腸内細菌異常増殖の診断を受けた高齢者の小腸の生検を分析した結果、小腸の絨毛の鈍化、粘膜の厚みの減少、そして白血球細胞の増加が示されました[2]。


Symptoms and Signs Explained 症状および兆候の解釈

バクテリアの異常増殖と関連する症状は、腫脹、腹痛や腹部不快感、下痢、便秘、疲労、衰弱、腹部膨満といったものです。症状の酷さは、小腸内の異常増殖の量に加えて炎症の度合いを反映しています[2]。小腸内細菌異常増殖の症状は非特異的な可能性があり、これが過敏性腸症候群、乳糖あるいは果糖の過敏症、セリアック病やクローン病との区別を困難にしている可能性があります。

小腸内細菌異常増殖の患者さんたちでは、摂取した炭水化物が異常に増殖したバクテリアによって小腸内で発酵しますが、これがガスの生産増加を引き起こし、腫脹や鼓腸をもたらします[5]。生産されるガスには水素およびメタンがあります。この異常増殖により過剰のメタンが生産され、このメタンの存在が便秘を引き起こすことを示唆するエビデンスが存在します[6]。研究によると、腸内微生物叢の変化による呼吸中のメタンの減少が、この便秘を改善することが示されています[6]。一方で、バクテリアの異常増殖が原因の粘膜厚の減少は、浸透圧負荷を増加させ下痢を引き起こすことが示されました。研究では、慢性の小腸内細菌異常増殖の見られる過敏性腸症候群の患者さんたちでは、下痢優性型IBSの可能性がより高いことが明らかにされました[6]。


小腸内細菌異常増殖の合併症

小腸内細菌異常増殖の症状は、運動性に関する問題、吸収不良、栄養不足といった合併症を反映している可能性があります。小腸内細菌異常増殖の合併症は、軽い消化障害から重い吸収不良の問題までと多様で、特に脂溶性ビタミン欠乏症のような複数栄養素の欠乏症の原因となります。脂溶性ビタミンの欠乏は、胆汁塩のバクテリアによる脱共役の結果としての吸収不良が原因で起こります。重い欠乏症状には、夜盲症(ビタミンA)、骨軟化症(ビタミンD)、プロトロビン時間の増加(ビタミンK)、そしてT細胞の働きの変化による免疫障害といったものがあるでしょう[2]。

ビタミンB12欠乏症は、小腸内細菌異常増殖に良くある合併症です。萎縮性胃炎およびバクテリア異常増殖の人を対象とした研究では、対照と比較してビタミンB12の吸収が少ないことが分かりました。この欠乏症は、抗生物質治療によって回復に向かいましたが、これは治療として腸内微生物叢を立て直すことの重要性を示しています[2]。

炭水化物およびタンパク質の吸収不良も、小腸内の過剰のバクテリアによる不完全な発酵および分解が原因で、良く起こる問題です。


Diagnosis 診断

小腸内細菌異常増殖の診断は、症状の特異性が低く、決定的な客観的な診断テストが存在しないことから、困難かつ議論の多いところです。小腸内細菌異常増殖の診断には、バクテリア培養と、より優勢な方法として呼気検査との、二つの試験が用いられます[2]。腸内のバクテリアを評価するための最も直接的な方法は、培養によるバクテリア数の定量的測定です。しかし、この方法には侵襲性のある高額な内視鏡的処置が必要とされるのに加えて、雑菌混入、十分なサンプルを吸入するのが困難、そして十二指腸管腔への空気の導入といった問題に通常直面します[2]。

この方法に課題が多いことから、小腸バクテリアおよび小腸内細菌異常増殖診断のための間接的な測定方法が開発されました。呼気検査は現在、小腸内細菌異常増殖の患者さんたちのための最も一般的な検査方法です。通常、ここで利用される呼気検査は、バクテリアの代謝によって飲み込んだ気質(通常、乳糖、ブドウ糖、蔗糖やキシロースのような単純な炭水化物)から生産された、呼気ガスの測定に100%依存しています。患者さんたちは通常、非発酵性の複合糖質の摂取を避け、一晩絶食するようにと指示されます。一晩の絶食後、水素やメタンのサンプルを取り、次に患者さんは小さなコップ一杯の水中に投与された乳糖10gあるいは50-80gのブドウ糖を摂取します。そして呼気のサンプルが15-30分毎に合わせて3-4時間の間、集められます[2]。

小腸内細菌異常増殖の呼気検査には、この病気の診断のための代表的な診断基準についての合意がないことに加えて、誤りの陰性結果の比率が非常に高いといった、幾つかの複雑な事態があります[2]。


Treatment 治療

小腸内細菌異常増殖の治療方法は、素因的状態に取り組み、かつ(ハーブや従来の)抗生物質、プロバイオティクス、そして食事の見直しといったものが関わってきます。治療の目標は、正常な小腸微生物叢を回復させ、更に全ての栄養不足を治療することです。

“1オンスの予防には1ポンドの治療の価値がある”
—ベンジャミン・フランクリン

小腸内細菌異常増殖の発症を予防する保護因子には、十分な胃酸の生産および分泌、膵臓酵素、適切な運動性および排泄、生体膜、十分な分泌型IgAおよび胆汁酸といったものがあります[1]。

いったん小腸内細菌異常増殖の診断が確定したら、抗生物質リファラキシミン(一日1200mgを10-14日)による一連の治療を行うのが標準的です。リファキシミンは小腸内細菌異常増殖で最も良く研究されている治療法で、呼気検査による49.5%の病気の消散率を、8つの臨床試験で示しました。しかし、メタ分析では、長期的な抗生物質の治療効果はたった9.8%であることが示されました[1]。抗生物質には広範な毒性や副作用、そして耐性があることも良く知られています。更に、リファキシミン治療後の再発率が高いことが示されました[1]。ある臨床試験では、リファキシミンを一部加水分解したグァーガムと組み合わせると小腸内細菌異常増殖の再発率をリファキシミン単独と比較して減少させることが示されました[7]。

ある研究では、小腸内細菌異常増殖におけるハーブ治療の有効性を抗生物質治療と比較しました[1]。この研究での、小腸内細菌異常増殖の患者さんたちによる規格化した呼気水素検査の奏功率は、ハーブ治療の46%に対してリファキシミンでは34%でした。この研究では、ベルベリン抽出物、オレガノ油、ヨモギ、そしてコモンタイムといった抗菌性のあるハーブを組み合わせたものが用いられました。研究者たちは、抗生物質あるいはハーブの治療を受けた患者さんたちでは、同じような奏功率および安全性プロフィールが確認されたと結論しました。更に、リファキシミンが効かない患者さんたちでは、ハーブ治療が三つの抗生物質の組み合わせと同等の効果性を持つ治療法となる可能性があることも分かりました[1]。

幾つかの研究は、過敏性腸症候群の効果的な治療としてのプロバイオティクスの使用を支持しています。しかし、プロバイオティクスによる小腸内細菌異常増殖の治療の試みにより示された結果は混在しています。乳酸菌を用いたある研究では、症状の改善および呼気中水素レベルの減少が示されました。しかし他の研究では改善は示されませんでした[2]

発酵性のオリゴ糖、二糖類、単糖類および多価アルコール(FODMAPs)の含有の低い食事は、過敏性腸症候群の症状を軽減し、腸の微生物叢に際立った効果を及ぼすことが示されました。FODMAPsの低摂取の長期的な効果については、更に多くの研究が必要とされています[8]。


結論

人体は、少なくとも人間の細胞の10倍以上の微生物細胞を抱えており、これらの細胞の大半は胃腸管内に集中しています[3]。微生物叢についての、より新しい興味が存在しますが、これは、更に具体的に言うと、腸内微生物叢と腸機能や様々な病気の発症との関係です。腸内微生物叢には病気で果たす何らかの役割があるとすると、小腸内細菌異常増殖は解明・治療すべき重要な消化器疾患です。これまでの研究では、小腸内細菌異常増殖の治療方法としての腸内微生物叢改善について、有望な結果が明らかにされてきており、最適かつ成功率の高い診断および治療方法を明らかにするためには、更に深い調査を行うことが必要です。