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旅行者下痢症

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旅行者下痢症 - 予防と治療

by Dr. Sarah King ND
5-3405 South Millway,Mississauga, Ontario,L5L 3R1







Traveller’s Diarrhea - Prevention and Treatment





熱帯地域や亜熱帯地域に旅行する場合、細菌に感染して旅行者下痢症を患うリスクが常にあります。海外旅行者の約30〜50%が、旅先に到着して2週間以内に旅行者下痢症を発症するといわれています。[1][2][3]

旅行者下痢症は自然に治癒する疾患で、多くの場合、治療すると1〜3日で回復しますが、[1]自然治癒の場合は最長7日間続きます(感染の種類によってはさらに長びく場合もあります)。旅行者下痢症を患うと、休暇が台無しになったり、帰宅後に仕事に支障をきたしたりする可能性があるといわれています。

こうした感染の原因は、細菌からウイルス、さらにはジアルジア(別名「ビーバー熱」)などの原生生物まで様々ですが、最も一般的な原因は、汚染された食物や水が体内に入ることで、大腸菌の病原菌株が消費され、消化管の機能が乱れるためです。

Traveller’s Diarrhea - Prevention and Treatment

旅行者下痢症は、典型的な胃痛とは異なり、吐き気や嘔吐、腹部の痙攣、時には発熱を伴い、1日に数回水様便が出て、いわばトイレから出られない状態になります。[1]屋台の食べ物、冷蔵保存されていない食べ物やサラダ、調理不足の食べ物を摂取すると、よりリスクが高くなります。特定の地域に不慣れな場合は、瓶詰めされていない水や水道水にも注意する必要があります。

さらに懸念されるのは、薬剤耐性菌の増加です。これは、特定の細菌種が利用可能な抗生物質治療に対して耐性を持つようになってきていることを意味します。[2]多くの場合、旅行者下痢症に対する抗生物質の予防接種が勧められていないのはこのためで、これにより、将来の治療に対して細菌が耐性を持つようになるリスクが非常に高まるだけだからです。アフリカ、アジア、南米(カリブ海を含む)を訪れたオランダ人旅行者を対象としたある研究では、参加者の32%がシプロフロキサシン耐性菌に感染したことが示されています。シプロフロキサシンは、休暇の旅先で病気になった際に処方される抗生物質です。

また、抗生物質トリメトプリム/スルファメトキサゾールへの耐性も広く見られ、耐性率は世界中の多くの地域で高まっているようです。[4]

研究により、旅行中の抗生物質の使用が、こうした耐性の一因となる可能性があることが示されているため、治療ガイドラインでは、上記の地域への旅行者に対して、抗生物質を日常的に処方しないように推奨されています。[2]ただし、旅行前および旅行中にプロバイオティクスの服用を勧められる場合があります。ランダム化比較試験のメタアナリシスでは、特定のプロバイオティクス株には、旅先での下痢の予防効果が85%あることが示されています。[5]

病原菌と旅行者下痢症の原因

大腸菌について考える際に大切なのは、大腸菌種には数十の菌株があり、それぞれが異なる方法で宿主の身体に影響を与えることです。健康な消化管には、共生大腸菌が数多くいますが、[6]健康を損なう恐れのある株がいくつかあります。これには以下が含まれます:

  • 腸管出血性大腸菌(EHEC):下痢や大腸炎を引き起こす可能性があります。この種の感染では、他の多くの合併症が生じる恐れがあります。[7]

  • 腸内病原性大腸菌(EPEC):特に子どもが感染した場合、長期にわたる深刻な下痢が生じる可能性があります。[7]

  • 毒素原性大腸菌(ETEC):毎年何億もの消化器感染症の原因となり、世界で最も一般的な旅行者下痢症の原因菌です。[1][3][7]

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  • 腸内凝集性大腸菌(EAEC):特に発展途上国の子どもや、熱帯地域や亜熱帯地域を訪れる旅行者にとって、一般的な急性の下痢の原因菌です。[8]

旅行者下痢症は、ノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスだけではなく、ジアルジアやクリプトスポリジウムなどの原虫感染によっても生じます。[3]感染の種類によって症状が異なり、例えば、ウイルス感染症の主な症状は嘔吐です。原虫感染症は、数週間続く可能性があるという点が、典型的な旅行者下痢症とは異なります。[3]

プロバイオティクスによる予防と治療

Saccharomyces boulardiiは、Saccharomyces cerevisae種のプロバイオティック酵母の菌株で、歴史的に感染性や炎症性の胃腸障害の治癒に用いられてきました。[7] 研究により、S. boulardiiが毒素や病原体に結合して、移動や転座する能力を妨げることで、細菌の病原性を低下させることが示されています。[7]

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EPEC感染症の場合、S.boulardiiは血流から細菌を効果的に除去し、細菌感染症に対する耐性を高めることが示されています。しかし、このスーパー酵母の働きはこれだけではありません!S. boulardiiは、酵素反応を妨害することで、結腸の細胞がEHECによって破壊されるのを防ぎます。別の研究では、事前に腸をS. boulardiiに曝すことで、その後、感染と闘えるようになることが示されています。酵母は、本質的に感染の初期段階で抗炎症性サイトカインの放出を促進し、抗炎症プロセスをコントロールおよびサポートします。[7]

Lactobacillus rhamnosus GG株は、下痢、ウイルス性および原生生物による胃腸感染症、急性の下痢の治療にも有望な結果を示しています。[9]北アフリカを訪れた旅行者を追跡したある研究では、旅行者下痢症を12〜45%予防できることが示されています。[1]

アシドフィルス菌株の効果に関する研究では、アシドフィルス菌は消化管の健康に有益な可能性がありますが、旅行者下痢症に対する予防効果は示されていません。[4]また、別の研究では、ETECに対するアシドフィルス菌による治療について調査したところ、プラセボと比較して有効な結果は得られませんでした。[10]

では、用量についてはどうでしょう?数百万および数十億のコロニー形成単位(CFU)のプロバイオティクスがカプセルに含まれている場合、効果的な用量を理解するのは困難な場合があります。S. boulardiiに関する研究の多くで、40〜2,000億CFU使用されていて、旅行の数日前または1週間前に治療が開始され、旅行期間中、治療が行われています。[5][11]

こうした用量を維持するには、S. boulardiiの凍結乾燥製剤と加熱乾燥製剤を含む製品を使用することが重要です。S. boulardiiの凍結乾燥製剤には貯蔵安定性があり、常温で保存しても効力が維持され、菌を生存させ続けるために冷蔵する必要はありません。 [11]

その他の治療

デュコラルは、カナダの薬局(処方箋なし)で入手可能な医薬品で、コレラや、わずかにETEC感染を予防できる全細胞性の不活化ワクチンです。あるレポートによると、デュコラルには、旅行者下痢症に対して28%の予防効果があるといわれています。[1]

「ピンク色の液体」として最もよく知られているビスマスは、旅行者下痢症に効果があることが示されています。ただし、他の治療法よりも効果がはるかに低く、症状が16〜18%減少します。[1]また、ビスマスによって下痢の緩和を感じるまでに、かなり時間がかかります。[1]

ロペラミド(製品名イモジウム)は、下痢の治癒に用いられる一般的な市販薬で、軽度の下痢の症状を緩和できる可能性があります。しかし、血性下痢や発熱が生じた場合は、ロペラミドとビスマスの両方を避ける必要があります。 [3]

Traveller’s Diarrhea - Prevention and Treatment

ショウガは、乗り物酔いに伴う症状の緩和に役立つことが示されていますが、抗潰瘍、鎮痛、抗菌効果に加え、抗炎症効果もあります。[5] 抗生物質は間違いなく効果が実証されていて、その多くが、旅行者下痢症をより早く治癒させるのに効果的ですが、[3][4] あらゆる抗生物質に等しく効果があるとは限らず、複数の因子に基づき最適な治療法が決定されます。

最も重要なのは、水分を十分に摂取し続けることです。旅行者下痢症では、特に水を飲めないと、重度の脱水症状が生じる恐れがあり、子どもや高齢者の場合、点滴による水分補給が必要になる場合があります。[1]

一般的に信じられていることとは逆に、ゲータレードやジュースなどの飲料は、水分補給や電解質交換に適してはいません。こうした飲料には糖分が多く含まれていて塩分が少なく、下痢に伴う脱水症状対策には不向きです。[1]

また、感染により酵素ラクターゼが一時的に欠乏して、一時的または永続的な乳糖不耐症が生じる可能性があるため、発症後は乳製品を避けましょう。[3]

多くの場合、自然に治癒しますが、医療ケアを受ける必要がある場合もあります。より深刻な感染症の兆候には、長引く発熱、悪寒、水を飲めない状況下での血性下痢などがあります。[1]

ストレスや時差ボケ、馴染みのない食べ物や水を摂取することで、旅行中に病原菌に感染する可能性が比較的高まります。これは、すでに腸内細菌叢が不均等だったり不健康だったりする場合に特に当てはまります。[5]旅行前や旅行中にS. boulardiiなどのプロバイオティクス株を摂取することで、病原性大腸菌の感染に対する宿主の耐性が高まり、適切かつ安全に旅行者下痢症を予防できるようです。

こうした感染症では、かなり短時間に比較的大量の水分が損失するため、感染中には適切に水分を補給し続けることが大切です。多くの場合、2〜7日以内に自然に治癒しますが、医師による治療や緊急治療を要するような症状について、注意することが重要です。