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社会不安障害

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社会不安障害-認識不足で過小評価された難問への統合的戦略
By: Candice Esposito ND
Algoma Natural Healing Clinic
45 Grace Street, Sault Ste. Marie, ON. P6A 2S7
www.calmlivingblueprint.com


Social Anxiety Disorder

パートI:社会不安障害とは何か?

およそ人口の13%は一生の間に、全ての不安障害の中で最も良くある形の不安障害(2)、社会不安を経験します(1)。これはアルコール濫用や鬱の後に最も良く見られる精神医学的な病気です。その診断と治療を取り巻き、未だに多くの疑問や議論が存在します。

現在のところ、精神障害の診断と統計的手引き(DSM-IV: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)では、社会不安障害(SAD: social anxiety disorder)を「社会的な状況における困惑や屈辱に対する持続性かつ衰弱性の不安」と定義しています。SADの人々はしばしば、こういった社会的状況を完全に避けたり、著しい苦痛に耐えたりしています(3)。

幾つかの理由により、この定義の改訂が提案されました(4)。

  • はにかみとSADとの違いが曖昧である。
  • SADの明確な原因が確証されていない。
  • SADが認識不足のために過小評価されているのか、それとも過剰に診断されているのか、見解が対立している(5)。

医師のオフィスで一番良く使われるSADのスクリーニングツールの一つに、“ミニSPIN”というものがあります。このスクリーニングツールでは、患者は次の記述を0(全くない)から4(非常にある)までの尺度でランク付けします。

  • 恥をかくかも知れないという不安が原因で、何かをしたり人に話しかけたりするのを避けてしまう。
  • 自分が注目の的となる活動を避けてしまう。
  • 恥をかいたり、愚かに見えたりすることは、自分が最も恐れるところである。

6以上のスコアは追加検査の十分な根拠があります。このミニSPINは、89%の正確さでSAD患者を発見することが示されてきました(6)。

SADの発見率が良くないのは、ひょっとしたら障害そのものの性質にこそあるのかも知れません。他人に良く思われないかも知れないという恐れのために、SADの人々は自分の問題について話すことを戸惑い、むしろ不安を直視するよりもそれを避けようとするのかも知れません。ですから、これらの個々人は助けを求めたりこの特定の種類の不安が問題であることを医師に述べたりしそうにないのです(5)。

一般に、この障害は人生の早い時期に始まり、もし治療されなかったら一生そのままです。SADの症状は患者の性格の一部で変えられない何かであると人々は思い違いするかも知れません。“社会不安障害”という用語は1994年になるまで導入されませんでしたが、これについて何人かの研究者は、鬱や他の不安障害と比べて、メディアからの注目が欠如していたことがSADの認識不足に寄与したという学説を立てました(5)。

社会不安は学業や仕事の成功を妨げ、その結果として経済的な依存や人間関係の破綻をもたらす可能性があります(8)。社会不安の患者は障害のない人と比較して、デートすることがより難しく(9)、結婚する確率がより低く(10)、病気日数がより多く記録され (11)、仕事の生産性低下を経験し(12)、社会扶助制度により頼っています(11)。SADの人々は同様に、鬱や薬物濫用の傾向がより高いのです(13)。

なぜこの障害が認識不足であるのかという理由に関わらず、SADが患者の生活の質を下げることは明らかで(14)、プライマリーケアにおけるこの障害のスクリーニングを改善する必要性が高いことは明白です。

社会不安障害かも知れないという疑いのある個々人は、ウェブ上の鬱と不安テスト(http://www.wb-dat.net)を行い、結果を印刷して医者に持って行くか電子メールで直接送信することが可能です。このテストは医療従事者と会話を始めるのをより容易にする助けとなる可能性のある臨床で認可されているスクリーニングツールの一つです(15)。


パートII:SADの従来の治療と統合的治療

Conventional and integrative treatment for SAD

社会不安障害(SAD)は十分に認識されていないばかりでなく、過小評価されています。ある研究で、幾つかのメンタルヘルスの問題について多数の人々をふるいにかけたところ、SADの基準に合致した人々のたった7.9%しか治療を受けていませんでしたが、このパーセンテージは調査した他のどの疾患よりも低いものでした (1)。

平均的にSADの人は、パニック障害(79か月)や全般性不安障害(84か月)の人に比べて、最初に症状が始まってから不安に関する特定の治療を受けるまでに、より長い時間(166か月)がかかります(2)。

過小評価されてはいるものの、SADに効果のある治療が存在します。最も研究されている二つのオプションは、認知行動療法(CBT: cognitive behaviour therapy)と薬です。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs: selective serotonin reuptake inhibitors)、モノアミン酸化酵素阻害剤(MAOIs: monoamine oxidase inhibitors)やベンゾジアゼピン系薬などの処方薬剤は、CBTよりも速く症状を軽減させます。しかしこれらの薬剤の効果は短期的なものです(3)。SADの慢性的な性質をかんがみると、個々人に長期にわたって効果のある治療に重点を置くのは理に適っています。

食事制限とMAOIsの有害作用、そしてベンゾジアゼピン系薬に本来備わっている濫用と物理的依存の可能性などの理由で、SSRIsはSADの薬の第一選択肢とみなされています(4,5)。

過去数年間で、抗鬱剤の処方に400%の増加があったという事実(6)は、長期的な行動の変化や治療に効果のある根本的な心理的要因への取り組みよりも、短期的な症状の軽減に大きく依存していることを、残念ながら示唆しています。しかし、不安の治療における自然療法の効果に関するエビデンスは増加しており、アプローチにある変化をもたらす望みがあるのです。

セントジョンーンズワートは、特にSADのための治療法として注目されてきた唯一のハーブです(7)。SADと鬱との両方を患う人々が除外された研究ではセントジョーンズワートは何の効果も示しませんでしたが、このハーブが伝統的に鬱に使われてきたことを考慮するのは重要です。多分、セントジョーンズワートは、SADに加えて軽度から中程度の鬱を患う人を治療するのに、より相応しいのかも知れません。

カワカワを用いると全般性不安が軽減することは、有力な医学的根拠が裏付けており (8,9)、また初期の研究はイチョウ(10,11)、パッションフラワー(12)、カモミール(13)、スカルキャップ(訳者注:タツナミソウ)(14)、レモンバーム(15)そしてバコパ(訳者注:ゴマノハグサ科ウキアゼナ属の植物)(16)に効果があるかも知れないことを示唆しています。こういったハーブによるSADに特化した効果を探求するためには、更に進んだ研究が必要です。しかし、これらのハーブは全般性不安に対してプラスの作用があり、安全性が確かであることから、これらのハーブを全体論的治療プランの一部に組み込むことを考慮するのは理に適っているように思えます。

マグネシウムは、ハーブの処方と組み合わせると、軽度から中程度の全般性不安と診断された人々の不安を著しく軽減させることを示しました(17)。もともと豆類や玄米のような繊維質の豊富な食物中に見られる物質であるイノシトールは、一日あたり12グラムを服用すると、パニック発作の頻度と激しさおよび広場恐怖(逃げるのが難しいと感じられる環境にいる恐怖)の激しさを、軽減させることが示されました(18)。ある研究では、パニックの発作を減少させるのに、イノシトールが特定のSSRIよりも効果的であることが示されました(19)。

オメガ3不飽和脂肪酸重合体(例えば魚油)については、それが鬱様の情緒障害に対して明らかに発揮する効果を不安に対しては発揮しないという医学的根拠が存在するものの、いくつかの研究ではSADの患者はしばしばオメガ3の血中濃度が低いことが確認されています(20)。オメガ3は、不安に関係するいくつかの症状を軽減することが示されており、視床下部-下垂体-副腎(HPA: hypothalamic-pituitary-adrenal)軸の活性化を阻害すると考えられています。別の言い方をすると、オメガ3は体のストレスシステムを鎮静化します(21)。

統合的かつ自然療法的な医療の本来の目的の一つは、その人特有の隠れた根本原因に取り組むことにより、その人全体を治療することです。それゆえに、全体論的医学の従事者はしばしば組み合わせた処置を行います。

ある研究では、アシュワガンダ(訳者注:ナス科ウィザニア属の植物、常緑低木)ハーブ300mgを毎日2回、食事のカウンセリング、呼吸によるリラクゼーションのテクニックそして標準的マルチビタミン剤で構成する自然療法的な治療プログラムを、心理療法、深呼吸エクササイズとプラセボの丸薬による治療を受けた対照グループと比較しました。自然療法のケアを受けた患者は、メンタルヘルス、集中力、疲労、社会的機能、活力および総合的な生活の質においてより著しい効果を示しました(22)。サンプル数は少ないもののその結果は断然有望で、SADのような不安障害への全体的なアプローチの必要性を支持しています。

SADに対して自然療法を適用することに特化した研究がより多く必要とされていますが、カワ(訳者注:カワカワ)のようなハーブやマグネシウム、そしてオメガ3のような栄養素を全般性不安に対して用いることを裏付ける医学的根拠は、これらを同様にSADの全体論的治療プランの一端として考慮に入れるのは理に適っていることを示唆しています。

このシリーズ記事のパートIIIでは、食事と栄養が社会不安にどのような役割を果たすかを吟味します。


パートIII:食事とSAD

Diet and SAD

食事がメンタルヘルスに影響することは、ますます多くの研究が示しています。ハーブと天然の栄養補給の事例(このシリーズ記事のパートIIを参照)のように、食事を調査する研究は、特に社会不安というよりは全般性不安に対するその効果に焦点を当ててきましたが、これらの研究から私達がひらめきを得ることのできる幾つかの教訓があります。

幾つかの研究では、野菜、果物や加工されていない赤身の肉などの“伝統的な食べ物”を摂取している人には不安障害の可能性が小さいことが示されました(1)。そして同様に、加工肉、ピザ、チョコレート、お菓子、清涼飲料、マーガリン、フライドポテト、ビール、ケーキやアイスクリームなど“西洋的な食べ物”を摂取している人には不安障害の可能性が著しく高くなっています(2)。

研究者たちは、人間はストレスレベルが増加すると代表的な西洋食にあるような、短期的予防効果があるものの長期的にはマイナスの結果をもたらすような“すこぶる味の良い“食物に手が伸びるという仮説を立てています(3)。加工食品は、不安障害を発症させる原因となるかも知れない反応性の高い酸化物を増やし、酸化性ストレスの原因となります (4)。

不安障害とカフェインやアルコールの濫用との因果関係は良く立証されています。社会不安障害(SAD)の個々人は、特にカフェインのマイナス効果に弱いのです(5)。長期間のアルコールの飲用は、脳機能に不可欠なビタミンB群などの栄養素のレベルを減少させる可能性があります。アルコールを用いたSADの治療は患者の不安のレベルを低減することが示されてきました(6)。それゆえに、特にSADの人々にとっては、これらの化学物質の濫用の有無を調べるのは重要であり、治療プランの一端としてこれらの物質を避けることを推奨しなければなりません。

小児脂肪便症(セリアック病)やグルテンアレルギーの人々は、SADの罹患率が一層高いようです(7)。同様に、より高い不安障害の罹患率は、過敏性腸症候群(IBS: irritable bowel syndrome)や食物アレルギー関連疾患の患者にも見られます(8)。ですから、SADの根本原因を調査する際に、食物アレルギーや不耐性の可能性を排除するステップを設けるのは、理に適っています。

結果として、栄養豊富で脂肪分の少ないタンパク質、野菜やオメガ3脂肪酸を推奨する一方で、精製炭水化物、加工食物、アルコールやカフェインを避けるのがSADの栄養療法の理に適ったアプローチなのかも知れません。ビタミンB6や亜鉛の不足を排除すると共に、食物アレルギーや不耐性の可能性を調べるのは、十分に根拠があります。


パートIV:SADの助けとなる更に統合的な戦略

More integrative strategies for helping SAD

社会不安障害(SAD)の個々人にとって、恐らく他のどんな処置よりも、ライフスタイルの変化やマインドフルネス(訳者注:mindfulness, 気付き、注意コントロール)をベースとしたアプローチの方が、長期的な効果に影響する可能性が大きいでしょう。

運動は、病気の全ての原因に対して予防的要素があることが示されてきた(1)ことからも、体を動かすアクティビティはSADにも同様に効果があるであろうことは論理的に思われます。驚くべきことに、運動不足と社会恐怖症との関連が必ず存在するように見えるにも関わらず、大規模な研究から派生した調査が殆どありません(2)。

ある小規模の調査では、自宅を拠点としたウォーキングのプログラムが効果的であることが示された(3)一方で、別の研究ではグループ認知行動療法と組み合わせた運動の効果が示されました(4)。興味深いことに、SADの個々人はパニック障害もしくは全般性不安障害の人々よりも、運動プログラムを最後まで遂行する可能性が著しく高く(5)、これはこの人々の運動プログラムに対する相性および潜在的な効果がより高いことを示唆しています。

自分が社会的に無様であるとか、不適切で力不足であるといった歪められた自己イメージはSADの鍵となる要因です。マインドフルネスを基本としたストレス軽減法(MBSR; Mindfulness-based stress reduction)は、これらの自己イメージを生み出す脳の部位にプラスの影響を与えることが示されてきました。つまりマインドフルネスによって、SADの個々人が感じるマイナスの自己イメージの数を著しく減少させたのです(6)。社会不安を減少させるMBSRのプラス効果は、複数の研究で再現されました(7,8)。

マインドフルネスでは、意識することや現時点で何も決め付けないことなどが伴われます。MBSRは、週毎のグループミーティング、1日のワークショップそして毎日の自宅での実践を通して「注意する意識」を学ぶ、8週から10週のプログラムです(9)。

比較的最近の認知行動療法(CBT)から枝分かれしたのは、受容と責任療法(ACT: Acceptance and Commitment Therapy)で、これは同じくSADの治療に見込みがあることが示されてきました(10,11)。ACTの目標は、豊かで意味のある人生を、それに伴う避けられない苦痛を受容しつつ作り上げてゆくことです。ですからCBTとは違いACTでは、否定的な考えを減らしたり排除したりするのではなく、そのような否定的な考えをどのようにして受け入れるのかを学びます(12)。

CBT療法士が、否定的な考え自体が不安の原因となるという理論を支持しているのに対して、ACT療法士は、否定的な考えとの格闘こそが不安の原因であると提議しています。

SADの性質として、時にはセラピストとの1対1の対話が困難となります。インターネットのようなメディアは、対面の会合を通じて治療を求めないであろう個々人にコンタクトする可能性をもたらします。「セカンドライフ」というオンライン上の仮想世界を介して受容ベースの行動療法を提供したある研究ではプラスの結果が見られたように、インターネットは大変有望です。参加者たちは、鬱、廃疾および生活の質に加えて、社会不安の症状にも著しい改善を体験しました(13)。

瞑想とマインドフルネスの手法は、否定的な考えに対する認知を変えさせ、物事をただそのままに何の価値もない行き交う考えや言葉の羅列として見るように働きます。この認知の変化は、そういった否定的な考えに対して反応を引き起こす可能性を減少させます。これは重要です、というのもそういった反応が心理的苦痛の原因であるからです (14)。

前で言及した通り、神経画像処理の研究ではマインドフルネスが、不安が影響を及ぼすと考えられている脳の部位の厚みを増やすといった、脳の構造を実際に変化させるほどの効能を持つことが示されました(15)。瞑想は同様に、脳内の神経伝達物質の放出にも影響を与える可能性があります(16)。

結論として、現在SADは認識不足で過小評価されているものの、障害への認知は増えつつあります。ミニSPINやWB-DATといった簡易なスクリーニングツールは、患者の発見を容易にし、患者の医師との会話を始める手助けとなります。SADの治療に関連する研究はまだ初期段階であり、薬による短期的症状の軽減に偏った治療は相変わらず大きな効果を上げています。しかし、食事やライフスタイルの変化、ハーブや天然サプリメント、そしてマインドフルネスを基本とした行動療法など、SADの治療における更に全体論的、長期的アプローチに希望を与える治療法の効果が、増加する医学的根拠により示されています。