胃食道逆流症を癒すための自然療法によるアプローチ Lara Spector ND https://www.laraspectornd.com 3 December 2020 言語 日本語 胸焼けは、酸逆流症または胃食道逆流症(GERD)と呼ばれることもあり、北米で最も多く見られる消化器疾患の一つです。胃酸分泌抑制薬(主にプロトンポンプ阻害薬[PPI])は、リピトール(コレステロール値を下げる薬)に次いで北米で2番目に多く処方されています。 胃酸分泌抑制薬(ネキシウム、ザンタック、プリロセックなど)の服用に関する問題点 こうした薬により胸焼けの症状を管理できますが、根本的な原因を治療できないため、多くの場合、生涯を通じて服用し続けなければなりません。 さらに悪いことに、胃酸の分泌を6週間以上抑制し続けると、次のような長期的なリスクが伴います: · 腎臓病。1 あるコホート研究では、PPIの服用に伴う慢性腎臓病(CKD)による死亡数は、1,000人あたり約4.19人(95%CI:1.56–6.58)と推定されました。2 · アルツハイマー病。75歳以上の高齢者73,679人を対象とした研究では、8年間の追跡調査後、PPIを慢性的に服用している患者は、服用していない患者と比較して認知症のリスクが44%増加していました。3 · 胃癌および結腸直腸癌(特に発癌物質NDMAを含むザンタックを服用している場合)。4 PPIの服用により胃酸(塩酸)が減少し、その結果:5 · 栄養素、特にビタミンB12、葉酸、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉄が欠乏します。 · 細菌が異常繁殖して(ヘリコバクター・ピロリ感染症、小腸内細菌異常増殖症[SIBO]など)過敏性腸症候群(IBS)が起こり、喘息、感染症、自己免疫疾患が生じます。 胃酸分泌抑制薬により、胃食道逆流症に伴う症状を緩和できる可能性がありますが、胃酸の分泌は胃食道逆流症の主な根本原因ではないため、病状を治癒できない場合が多いです。 主な根本原因: 胃酸が多すぎるのではなく少なすぎる 多くの人が、胸焼けは胃酸の過剰産生により生じると考えていますが、これはありがちな誤解です。胃食道逆流症の有病率は年齢とともに増加しますが、胃酸(塩酸)の産生は年齢とともに減少します。6 3,484人を対象とした研究により、男性と女性の27%が無酸症を患っていて、最も発症率が高いのは80〜89歳の女性(39.8%)であることが示されています。7 胸焼けは、胃酸が食道に入ることにより起こります。食道には、胃のように胃酸から保護するための粘膜がありません。食道に胃酸があると、胸焼けや胃食道逆流症に伴う酸逆流や灼熱感が生じます。 下部食道括約筋 (LES)の機能不全 食道は、下部食道括約筋(LES)と呼ばれる筋肉弁または括約筋によって胃から分離されています。下部食道括約筋は、入ってきた食物/液体を消化するために胃に送る際にのみ開かなければなりません。胃食道逆流症は、下部食道括約筋の機能不全によって生じます。下部食道括約筋が、開くべきではないときに開き、胃酸や胆汁が胃から食道に侵入します 低胃酸 胃酸は胃内pHを低い状態に保ち、細菌の繁殖を防ぐために必要です。したがって、胃酸を抑えるPPIにより、胃のみではなく、腸の一部でも細菌の異常増殖が生じる可能性があります。8 細菌の異常増殖により、炭水化物の消化が滞り、ガスが産生されます。9 産生されたガスによって腹部と胃の圧力が高まり、下部食道括約筋が正常に機能しなくなります。10 下部食道括約筋の機能不全により、胃や胆汁の酸が食道に入り、胸焼けや胃食道逆流症が起こります。11 胸焼けのメカニズム 低胃酸 →炭水化物の消化不良 → ガス → 腹圧の上昇 → LESの機能不全 → 胸焼け その他の胸焼けの原因 NSAIDの使用(アドビル、イブプロフェン、アスピリン) ストレス 胸焼けの治療 胃食道逆流症や胸焼けは、食事とライフスタイルを変更して根本的な原因に対処することで、容易に予防および治癒できます。私は以下の3つのステップを順に行い、薬を用いずに治療しています: · 胃酸の逆流により生じた食道粘膜の炎症を鎮める · 低胃酸と細菌異常増殖の要因を取り除く · 胃酸を有益な細菌に置き換える 胃酸の逆流により生じた食道粘膜の軽度の炎症 胸焼けや胃酸が逆流している感覚は、食道の胃酸や胆汁の上昇により生じます。食道には胃のような保護膜がないため胃酸を処理できず、炎症が起こります。そのため、まず炎症を鎮めて症状を緩和させ、ステップ2と3に進めるようにします。推奨されているサプリメントと食事療法は以下です。 デグリシルリジン化甘草(DGL)12 植物医学では胃の炎症に甘草が用いられています。甘草にはプロスタグランジンを合成し、リポキシゲナーゼを阻害する効果があるといわれています。胃食道逆流症や胸焼けなどの症状を伴う機能性ディスペプシアを患う成人50人を対象とした二重盲検比較試験では、甘草エキスにより、総症状スコアが大幅に低下し(p <0.05)、生活の質が改善することが示されています。13DGLは胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療にも有効で、ザンタックと同様に作用し、望ましくない胃酸分泌の抑制や副作用は生じません。14粘液の分泌を促進して新しい細胞の成長を促し、腸壁を良好な状態に保ちます。 亜鉛カルノシン 亜鉛カルノシンには、抗炎症作用と抗酸化作用があり、胃腸の壁を修復する働きがあります。創傷治癒におけるその安全性と有効性が実証されていて、細胞遊走を促し、粘膜内層の機能を保ち、機能不全を予防および改善する作用があります。日本では、胃潰瘍や胃食道逆流症、胸焼けなど、ほぼあらゆる上部消化管の疾患の治療に対する使用が認められています。15 マスティック樹液 マスティック樹液は、ギリシャの伝統医学において、2500年以上にわたって消化性潰瘍や胃炎などの治癒に用いられてきました。胃潰瘍の主な原因であるヘリコバクター・ピロリなどの細菌に対する効果が科学的に実証されています。ある研究によって、マスティック樹液には、胸焼けの治癒に重要な抗炎症作用、抗酸化作用、抗菌作用があることが示されています。16 炎症性食品の摂取を減らす The International Foundation for Gastrointestinal Disorders(国際消化器障害財団)により、胃食道逆流症による炎症を鎮めるために、グルテン、乳製品、辛い食べ物、柑橘類、トマト、コーヒー、ペパーミント、チョコレート、アルコールなどの食品を避けるよう推奨されています。17 低胃酸と細菌異常増殖の要因を取り除く 胃酸の分泌が低下して細菌が異常増殖する要因には、胃酸分泌抑制薬や抗生物質の服用、ヘリコバクター・ピロリ感染症、慢性ストレス、栄養失調があります。前述したように、胃酸の産生は年齢とともに減少することから、老化も要因に含まれます。18胃酸が十分にあることで胃内のpHが低下し、細菌が生存しにくい環境になることから、低胃酸により細菌が異常増殖し、細菌が異常増殖することで胃酸が減少する可能性があります。19細菌の異常増殖を根絶するために、オレガノ、ニンニク、ベルベリン、マスティック樹液などの抗菌作用のあるハーブがよく用いられています。 胃酸を有益な細菌に置き換える 低胃酸は胃食道逆流症に関連しているので、最後のステップでは、胃酸のレベルを上昇させます。これを早い段階で行うと、胸焼けの症状が悪化する恐れがあります。胃酸を増加させるための手順は以下です: · 食事の早い段階で塩酸(HCl)+ペプシンを服用する。HClチャレンジテストを行い、変換すべきHClの量を確認します。20 メインディッシュの前に塩酸ベタインピルを服用します。腸内に灼熱感がない場合は、翌日等に2錠服用し、灼熱感が生じるまで服用し続けます(最大9〜10錠)。1錠減らし、灼熱感が戻るまで同量を服用し続けます。さらに1錠減らし、ピルが不要になるまで繰り返します。 · 苦いハーブ21 · 食事前にアップルサイダービネガーを摂取する · LESの機能不全の原因となる胃内圧の上昇を防ぐために、暴飲暴食を避けるなど、生活習慣を変更する。タンパク質や緑色の野菜、シリアル、マメ科の野菜など、胃腸にやさしい食品を摂りましょう。副交感神経を機能させるために、食事の前に深呼吸し、時間をかけて食事をしましょう。 胸焼けや胃食道逆流症の一般的な原因は細菌の異常増殖であることから、細菌のバランスを正常な状態に保つことが治療に不可欠です。細菌の異常増殖を根絶した後、有益な細菌に置き換えるには、ケフィアやザワークラウトなどの発酵食品を摂取したり、プロバイオティクスサプリメントを服用したりします。すべてのプロバイオティクスが同様にできているわけではなく、小腸内細菌異常増殖症(SIBO)を患っている場合、消化器の症状を悪化させる可能性があるものもあります。安全性のために、自然療法医とともに適切なプロバイオティクスを選びましょう。 結論 胸焼けや胃食道逆流症は、自然療法を用いて容易に予防および治癒できます。残念ながら、胃酸分泌抑制薬を用いた主流の医学的アプローチにはリスクと副作用があります。より自然なアプローチにより、こうしたリスクや副作用を容易に避けられます References : Al-Aly, Z., G. 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